家をさがす

 帰国してから1週間が過ぎた。登山中の時間の密度は、いうまでもなく凝縮されて濃密で語り尽くせないと思えるほど私にとって大きな経験だったのだが、帰ってからも1週間とは思えないほどいろいろなことが起きた。
 そのうちのひとつは、家を探すというもの。お金のかけ方という視点から自分自身のライフスタイルを考えると、私は今まで、同居人とともに、山に登ることとその環境を維持することに重きを置いてやってきた。それはそれで、とても満足のいくもので、年をとってもこのままずっとこういう生活でやっていくのかな、とおぼろげながら思ってきたのだが、今回の山登りで、ちょっと考え方を変えてみようかなという気持ちになった。
 その考えの変化の理由のひとつは、今回出会った彼らが、山も楽しみ、生活も楽しみ、仕事も楽しむ、どれもおざなりにせず充実させようという気持ちを持ち、それを実現するためには、それなりの努力をしているのだということが分かり、そういうスタイルもいいなあ、と思ったからだ。
 デンマークのクラウスは、32歳という若さながら、フリーでコンピューターの仕事をし企業のクライアントを数件かかえている。クライアントと調整して長期の遠征をこなす傍らで、自宅兼オフィスの100㎡の部屋をコペンハーゲンの一等地に所有、月々30万円のローンを支払い中なのだという。「あと6年でローンは払い終える。がんばってるだろ!」と自分でも言っていたけれど、この若さですごいなあと思ってしまった。それなりの収入があるのだろうが、ひと月30万円のローンだ…。コペンハーゲンは東京くらい不動産が高いんだよ、と言っていた。「じゃ、30万円のローン払ったら、月の収入はどのくらい残るの?」と聞いたら「なんとか生活と山登りができるくらいかなあ」と笑っていたけど、そういう決断をするというところに、ちょっとだけ人生の広がり方を見たような気がした。そう、私は東京は不動産が高いし、ばかばかしいと思っていた。最初からそれらを人生の視野に入れることなくはずしてきた、と思う。もちろん、それにも満足してきたし正しいスタイルだとは今でも思うけれど、彼らの、生活の中での「taking risks」も、ちょっといいな、と思うところがあった。
 最初から視野に入れないのではなくて、より自分が満足するようなライフスタイルの全体像を描いた上で、できる範囲でそれらを実現させていく、という生き方もありだなあと思うようになった。そして、帰国後にやりたいことの第一弾が「家探し」だった。知る人ぞ知るこの家は、自分自身本当に気に入っているのだが、住み始めてから10年以上が経った。この家から、自分のスタイルが決まっているといってもいいほど、強烈なところなのだ。ただ、そのスタイルもそろそろ、変えてもいい時期かもしれない、と思いはじめている。