フランスの休日事情

 今回の遠征で、私は専らスペインの3人組と一緒にずっと行動を共にしていた。詳細は日記に書くとして、30台前半の、エネルギー溢れる彼らと共に行動するのは、私にとっては久しぶりの「合宿気分」だった。「高所では決して無理をしません」と常日頃主張している私だけれど、今回は、ちょっと冒険をした気分だった。彼らはもともとの体力がある上、観察した限り、おそらく高所にも体質的に強いと思われた。通常のセオリーには反するのだが、今回は日本の山の合宿のように、一緒に行動を共にする者として、なるべくペースを乱さないように彼らの行動についていくように努力してみた。結果、なんとか順応もそれなりにうまくいき、おまけに近頃守りに入っている私の限界を押し上げてもらったような気がしている。
 「ここで負けたら一生負け犬よ!」母校大学山岳部の尊敬する女性の大先輩が、あるとき新人の1年生に浴びせた(勇気付けた?)名言である。私は、今回、この言葉を何度か思い出していたほどだったから、私としては、かなり高所において無理して頑張ったという感じだと思う。
 
 スペイン人3人のうちの一人、32歳のイエルマは、スペイン人だが、フランスの銀行に勤めて7年目。「パリにアパートを所有しているし、彼女もフランス人、フランスの生活を謳歌しているよ」という彼は、MBAを持つビジネスマンでもある。EUでは、比較的相互の国の間で転職するのは容易らしいのだが、山をやろうと思ったらフランスは特別だ、という。彼は普段から、金曜日の仕事が終わってから夜行の列車に飛び乗り、ピレネーの山に登りに行って、月曜日の早朝にパリに戻って仕事に行くなどということをやっているほどの山好き(新宿発の夜行に乗って山へと出かけていく日本の状況に似ていて笑ってしまった)。おまけに、フランスの中でも銀行は労働組合が力を持っているらしい。なんと、年間50日の有給休暇があり、それを消化することが義務とされていらしいのだ。山好きな彼をしても「年間50日の有給を消化するのは、正直大変」というほどだから、恵まれすぎているというべき環境である。私は「うらやましいけど、年間50日も有給を取る人がいて、社会システムがどう成り立っているか興味があるわよ」と思わず言ってしまった。「そう、それは僕にも謎だよ。そんな環境だからフランス経済は下り坂なのさ」と笑っていたが、実際どう機能しているのか、知りたいところではある。いまどきのフランスの若者は働きたがらない、就職先で人気があるのは公務員、理由はほどほどに働けばいいから、というのが相場だと言っていた。
 彼は、今回の遠征のあと、続けてカナリー島の海辺で彼女としばらく過すのだという。それでも年間の有給がまだ余っているので、秋には彼女と日本に遊びに行く計画だと話していた。